『 わたしの ジゼル ! ― (1) ― 』
「 ・・・ はい ? 」
咄嗟に日本語が出たことに、フランソワーズは我ながら感心していた。
うわ〜〜〜 わたしってば〜〜〜 すごくない?
こりゃもう完全に にほんじん だわねえ ・・・
けど どうして pardon? って言わなかったのかなあ〜
そんなセリフ? が頭の隅でわんわん響いていて ― 彼女は大きく目を見開いたまま
( ついでに 口もちょこっと開けっ放し ) ぼ〜〜〜っと突っ立っていた。
目の前では 彼女が師と仰ぐ人物が早口でしゃべり続けている。
しゃべっている、ということは理解できるのだが ― はて その内容がさっぱり理解できない。
あ〜〜〜 ・・・ 何語で話ていらっしゃるのかなあ ・・・
日本語 ・・・? でも 意味がわかんない ・・・
― 自動翻訳機 ・・・ スイッチ入れちゃおう かな
「 それでね〜 相手はタクヤ。 即決了解済みよ。 振りは基本、パリオペラ座版。
音とDVDは事務所で受け取って。 それでスケジュールだけど ・・・ ん? 」
この部屋の主、そしてこのバレエ団の主宰者の老婦人は ふと言葉を途切らせた。
さっきから 大きなレッスン・バッグを手にした亜麻色の髪の < オンナノコ > を前に
どんどん話を進めていたが ― 肝心の彼女は ・・・ 一点を見つめ立ち尽くしている。
平たくいえば ぽ〜〜〜〜〜っとしている。
いや ・・・ なんだかふらふらしだす一秒前、みたいな雰囲気なのだ。
!!? なに ぼけっとしてるのかしら???
ね! アナタを 次の舞台の < 真ん中 > に抜擢したのよ?
… 聞こえてる? もしも〜〜し??
「 ? ちょっと ・・ フランソワーズ? わかった?
」
「 ! は ・・・ ? 」
< オンナノコ > は夢見る目つきで ぼんやりと答えた。
ヤダ ・・・ あ〜〜 少し早口すぎたかしら・・
「 あの! ちゃんと聞こえている? 私の話、理解できてる?
なんなら貴女のお国の言葉で繰り返しましょうか? 」
「 あ ・・・ はあ ・・・ 」
「 わかったわ。 しっかり聞いてなさい! 〜〜〜〜〜〜〜 」
老婦人は 堰を切ったよ〜〜に流暢なフランス語でしゃべり始めた。
「 え ・・・ え〜〜〜〜〜 ?? あ あのぅ 〜〜〜 」
「 〜〜〜〜〜 d'accord? 」
「 ・・・ あ あのぅ ・・・ 日本語で言ってくださいませんか 」
「 !!? フランソワーズ 〜〜〜 大丈夫?? 」
「 は あ あの ・・・ なんかよくわからなくて ・・・ すみません ・・・ 」
大きな碧い瞳にはついにうるうる涙が盛り上がってきてしまった。
「 ちょ・・・ こんなトコで泣かないでちょうだい。
あの ね。 次のジュニア・パフォーマンスで 『 ジゼル 』 やってちょうだい。
マチネーの一回公演だけど ・・・ 全幕。 がんばって。 」
「 ― わ わたし ・・・ ジゼル ですかぁ〜〜〜〜 」
「 そうです! 何回言わせるの〜〜〜 ちゃんと聞いてて。 」
「 はい ・・・ すみません ・・・ 」
うわ〜〜〜〜〜 うわ〜〜〜〜〜 うそぉ 〜〜〜〜
・・・ さっと顔を引き締めたけれど。 彼女の心の中はこんな声でいっぱいで・・・
それもがんがん反響していて うわ〜〜〜〜 の文字と音に押され 正常な理解力
は 隅っこに追いやられ拉げそうになっていた・・
「 それでね。 振りは 〜〜〜 音は 〜〜〜 」
「 ハイ ・・・ 」
金髪で碧い瞳の < オンナノコ > はやっとこっくり頷くと 今度はしっかりとした視線を
向けてきた。
ちゃんと返事もするし、 ゴソゴソ引っぱりだしてきたメモ帳に時々書きこんでいる。
「 〜〜〜 ということなんだけど。 明日か明後日までにNGの日、事務所に提出してね。 」
「 ハイ。 」
こくん。 真剣な顔でうなずく。
よし よし。 やっと目の焦点が合ったか ・・・
それにしても このコでもパニックになったりするのねえ〜
老婦人は内心 にんま〜りしつつもつとめて真面目な顔で話を続けた。
「 はい、 それじゃ。 頑張ってね。 他の生徒達も一生懸命踊るから 負けないように。」
「 ハイ ・・・ 」
「 わかっていると思うけど。 ウチではね、若手の勉強のために年に何回か
ジュニア・パフォーマンスをやっているでしょ。
今までアナタも何回か出演したわね。 今度はね、 フランソワーズ。
アナタが芯になって引っ張ってゆくのよ。 いいわね。 」
「 あ ・・・ あのう〜〜 」
また彼女がもじもじし始めた。
「 !? なんですか。 はっきり言ってちょうだい。 」
いささか気の短い老婦人は ちょっとばかり苛ついたようだ。
「 あの あの ・・・ すみません・・・ ウチかえってジョー・・・ いえ
あのぅ〜〜 しゅ 主人と相談したいんですけど ・・ 」
< オンナノコ > は またまた半分泣きそうになっている。
「 ・・・ あ ああ そうだったわね〜
― そうよねえ、 アナタ、あのカワイイちびちゃんズ のお母さんで
あのイケメン君のオクサン なのよねえ ・・・ 」
「 は ・・・ あ 」
「 うふふ ・・・ どうもね、全然そんな風に見えないから・・・ つい忘れちゃって ・・・
ごめんなさいね。 」
「 え ・・・ いえ ・・・ 」
「 いいわ。 彼氏を説得してらっしゃい! なんなら私、援護射撃するわよ? 」
「 は はい ! ありがとうございます〜〜〜 」
ぺこり、とお辞儀をすると、彼女 ― フランソワーズ・アルヌールさん、いや 正式には
島村フランソワーズ夫人 は まだふわふわした足取りで部屋を出ていった。
「 あ は。 そうよねえ … 彼女、 人妻で子持ちだったんだわよねえ 〜 」
見送った老婦人はちょっと苦笑しつつ 細いシガーに火を点けた。
― とん。 目の間には見慣れた扉が迫っている。
「 あ。 ・・・ ただいま ・・・ って もうウチ?? 」
玄関のドアの前で フランソワーズは目を見張った。
「 ヤダ・・・ わたしってば〜〜 どうやってウチまで帰ってきたの〜〜〜
う〜〜〜 全然記憶がないわ〜〜 」
気がつけば 両手にはしっかり満杯のレジ袋を下げている。
長ネギやらセロリがとびだし、ずっしり重いのはどうやら豆腐も忘れずに買ってきた・・・らしい。
「 ・・・ 稽古場出たのは 覚えてるわ。 スケジュール表を見ながら歩いてた・・はずよ。
ああ でもその後の記憶 ・・・ 飛んでるわ ・・・ 」
ふふふ・・・っと一人で笑ってしまった。
「 もうぼ〜〜〜っとしてたから・・・ きっとふらふらしつつメトロに乗ってJRに乗って・・・
スーパーで買い物して バスに乗って ・・・ 坂道登ってきたのかしら・・・
きっと・・・ 周りの人にぶつかったりしたかも・・・ よれよれ歩いて迷惑よね ・・・
みなさ〜〜ん 邪魔してごめんなさ〜い 」
そっと呟いて頭をさげてみた。 ちゃんと靴は履いているし、膝小僧も無事なので
転んだりはしなかった らしい。
ふう〜〜〜〜 ・・・ 思わず盛大にため息が出てしまった
「 夢 ・・・ じゃない のよね。 『 ジゼル 』 踊れる ・・・
ホント? 本当にホント なの? ・・・ わたし が ・・・ 」
こつん。 玄関のドアにオデコを付けてよりかかり立ち尽くす。
「 ― そんなこと ・・・ 本当にあるわけ??
・・・ 兄さん ・・・ わたし ・・・ ジゼル 踊るの よ ・・・ 」
ぽとん。 涙がひとつ 足元に落ちる。
「 兄さん ・・・ ジャン兄さん ・・ わたし わたし ・・・
ねえ 見てる? ねえ 聞いてる? 兄さん ・・・ 」
「 ― きこえるよ〜〜〜 」
「 !?!?!? 」
不意に 背中の下の方から懐かしい声が、 少年時代の兄の声が聞こえた。
「 え!!?? ・・・ ジャン兄さん ・・・? 」
フランソワーズは恐る恐る 顔を後ろへとねじ向けた。
・・・・? だれも いない ・・・?
ウソ ・・・ じゃあ 今の声は ・・・ 空耳 ・・・・
ううん! ちがうわ。 ちゃんと聞こえたもの。
― そうね 天国の兄さんからの 声 んだわ ・・・
「 ね〜 お家、はいろうよ〜〜 お母さん 」
< 天国からの声 > が また下の方から聞こえた。
「 あぁ そうね。 お茶の支度でもしましょうか 」
「 おやつ〜〜〜〜♪ ジャムとぉ はちみつ〜〜ビスケットにぬって〜〜 」
「 え ?? 兄さん、そんなに甘党 ・・・ ええ? 」
「 ね〜〜〜 おかあさん〜〜〜 」
つんつん ・・・ 今度は パーカーの裾が引っ張られた。
「 へ??? お かあさん ・・・?
あ。 ・・・・ すばる ・・・・ 」
彼女の小学3年になった息子が にっと笑って立っていた。
「 ただいま〜〜〜 おか〜さん 」
・・・ あ このコ ・・・ ずっとジョーのコピーって思ってたけど。
兄さんにも似てる ・・・ んだ・・・
お母さんは すばるの茶色の髪と同じ色の明るい瞳をしげしげと眺めるのだった。
「 そんでね〜〜〜 僕ぅ〜〜〜 もちょっとでオシッコちびっちゃいそうだった〜 」
「 これ。 お父さんはご飯中なのよ! 」
「 えへへへ ・・・ 」
「 まあ いいさ。 すばる、そんな時はさあ ガマンしないで道の端っこにしゃ〜〜っと 」
「 ジョーォ! 」
「 ・・・ すいません、奥さん。 すばる、今のことは忘れろ。 」
「 ? うん♪ おと〜さん♪ 」
その夜 ― 珍しく子供たちが眠る時間の前に お父さんがかえってきた。
ちょうど金曜日だったし ( 明日 学校はお休み♪ ) 子供たちはお父さんの晩御飯の
食卓に へばりついていた。
現在 ジョーは出版社勤務でそろそろ中堅、といったところ。
最初はアルバイトで入ったこの業界だが 彼自身この仕事が天職なのでは、と思い始めている。
つまりとても充実した < 仕事人間 > の日々を送っているのだ。
と 同時に < 忙しさ > もますます増してきている。
仕事の性質上、朝はそんなに早くはないが 帰宅はどうしても日付が変わる頃 ・・・
彼の最愛の子供たちとは 週末くらいしかゆっくりと過ごすことができない。
そんな日々だから たま〜〜〜にお父さんが早く帰宅すれば 子供たちは眠くてもなんでも
ひっついて纏わりつくのだ。
「 おか〜さんってば〜 どうしてお玄関のドアにくっついてたの〜〜
・・・ あ おと〜さん、アタシ、 それ 食べたい〜〜〜 」
姉娘のすぴかは ちょこんと父親の隣に座って、ちょろちょろオカズのお裾分けを狙っている。
「 うん? これ 食べるか? 芥子明太子 だぞ? からいよ〜〜 」
「 アタシ すき♪ 」
「 そっか? それじゃ 」
「 ジョー、 食べさせないで。 すぴかはもうちゃんと自分の晩御飯は食べ終わっているの。
すぴかさん、アナタはもう歯を磨いてくる時間でしょう? 」
「 〜〜〜〜 明日 お休みだも〜〜ん 」
「 あ〜〜 僕も 僕もぉ〜〜 」
弟も姉の脇に割り込んできた。
「 いけません。 二人とも〜〜 お父さんに落ち着いて晩御飯を食べさせてあげて。 」
「 あは 大丈夫だよ〜 」
「 だめよ、ジョー。 さあ すぴか すばる。 お父さんにお休みなさい、と言って。 」
「 う〜〜〜〜 もうちょっとぉ〜〜〜 」
「 もうちょっとぉ〜〜〜 」
「 ダメです。 ほらほら〜〜 歯磨きタイム! 」
「「 ふぇ〜〜〜〜い ・・・ 」」
母にやいやい言われて 子供たちは仏頂面でやっと食卓を離れた。
「「 おと〜〜さん おやすみなさ〜〜い 」」
「 お休み〜〜 すぴか すばる。 ごめんな〜 日曜日は一緒にゴハン、食べるから さ 」
「 うん!! やくそくだよ〜〜〜 」
「 やくそく〜〜〜 」
指切りげんまん〜〜 をして 子供たちはようやっと歯磨きにバス・ルームへと出て行った。
「 ちゃんと磨くのよっ ! 」
母の声が追い掛けていったけれど はたしてちゃんと耳に入ったかどうかは疑問である。
「 ・・・ もう〜〜〜 」
「 あは ・・・ そんなに怒るなよ 」
「 だめよ、ジョー。 甘やかしては。 正しい生活習慣を身につけさせなくちゃ。 」
「 へいへい ・・・ きみにばかり押し付けて・・・ ごめん ・・・ 」
「 ? なにが 」
「 いや その・・・躾っていうか・・・所謂子育て を さ。 」
ジョーは 箸を置くとちょっとアタマを下げた。
「 やだ ジョーったら・・・そんなことやめて? だってジョーにはお仕事が
」
「 子育てより大切な仕事、ないと思うんだ ぼくは 」
「 それは ・・・ でもね、一家を支えて働くって本当に大変なことだと思うの。
だから ね。 できるかぎり分担しましょ? 今は ― わたしがチビたちと格闘します。
わたしの手に余るときには ・・・ お父さん、お願いね。 」
「 了解〜〜〜 分業 だね 」
「 そうです。 テキは二人いるんですから わたし達もしっかりタグを組んでゆかないと!」
「 あは BGよりよっぽど手強いもんなあ 」
「 そうよ〜〜〜 テキはねえ 天使の笑顔っていう必殺武器をもってますからね 」
「 確かに ! う〜〜ん アレは無敵だよ 」
「 うふふ・・・天下の009にそう言わせるなんて スゴイわあ〜〜〜 ウチのチビたち 」
「 スゴイよ。 きみの娘と息子だもの。 」
「 ええ アナタのお嬢さんと坊ちゃんですからね 」
あはは ・・・ うふふ ・・・ 二人は見つめあってほっこりと笑い合った。
「 ん〜〜〜〜 美味かったぁ〜〜 ご馳走様 」
「 お茶 どうぞ。 ジョーの好きな玄米茶よ。 」
「 ありがとう ・・・ ああ ・・・ ふうん ・・・ 香ばしいね 」
「 ・・・ ホント ・・・ わたしも好きよ 」
夫婦はゆっくりとお茶を飲む。
夜も更けてきたリビングには 波の音がいつもより大きく聞こえるがそれも心地よい。
ジョーは ほう・・・っと満足のため息をもらす。
「 で さ。 きみはどうして玄関のドアに張り付いていたわけ? 」
「 え?? 」
「 すばるが言ってたじゃないか。 」
「 あ ・・・ ええ うん。 あの ちょっと考え事してて ・・・ 」
「 玄関のドアの前で? 」
「 ・・・ ええ。 」
「 なにか あるのかな。 ― 聞くよ? 」
「 ― あ ・・・ あの ね。 ジョー ・・・ 聞いてくれる? 」
「 うん。 」
「 あの ね 」
フランソワーズは 大きく息を吸いこむと ― 今日の顛末をゆっくりと話し始めた。
「 ・・・ それで ね。 あの ・・・ いい? 」
「 いいって ― その舞台に出ていいってことかい。 」
「 ええ。 この < 仕事 > を引き受けてもいいかしら。 」
「 いいかしら って ・・・ だってきみの夢だったんだろう?
『 ジゼル 』 を踊ることが さ 」
「 ええ ・・・ そうなんだけど ・・・ 」
「 それじゃ なんでそんなこと 聞くのさ? きみはきみの夢を追うべきだ。 」
「 え でも でも ・・・ だって …
リハーサルで帰り 遅くなるわ。
チビ達には 学童クラブに 遅い時間までいてもらわなくちゃならない
土曜も出掛けることがあるから
家族で過ごせないわ 」
「 そんなこと! だってず〜〜〜っと続くわけじゃないだろ?
それに ね。 家族なんだよ 皆できみのこと 応援するよ。 もう一度言うけど・・・
きみはきみの夢を追えよ。 最大のチャンスをゲットするだ。 」
「 ・・・ ジョー ・・・ ! 」
「 ぼくも もっと早く帰れるようにするし。 朝だってもっと早起きすれば
チビたちが登校する前に話もできるし ・・・ そうさ 朝ご飯を一緒に食べるよ 」
「
ジョー ・・・ 無理しないで。 お仕事を犠牲にしては駄目。
今の仕事 ジョーの生き甲斐でしょ ? ジョーだってジョー自身の夢を追わなくちゃ。 」
「 ・・・ ありがとう フラン。 でもね 今度はぼくが、いや チビたちだって
きみの夢の実現に 協力する番なんだ。 」
「 そんなワガママ・・・言ってもいい ・・・? 」
「 ワガママなんかじゃない。 きみのシアワセはね、家族みんなの幸せでもあるんだ。
頑張れよ。 ― きみの ずっと・・・ずっと思っていた夢を実現させるんだ。 」
「 ジョー ・・・ ジョー ありがとう! 」
ぽと ・・・ ぽとり。 碧い瞳から涙が落ちる。
「 あ ・・・ 泣くなよぉ〜〜 」
「 ・・・ だって ・・・ 嬉しいんだもの ・・・ 」
「 チビたちにはね ぼくからも話をする。 あの子たちだっていつまでも赤ん坊じゃないんだ。
ちゃんと話せばわかるよ。 」
「 ええ ・・・ でも 淋しい思い、させたくないのよ ね? 」
「 う〜〜〜ん ・・・ でも・・・ 」
「 ワシを忘れてもらっては困るな 」
咳払いと共に 戸口で静かな声が聞こえた。
「 ?
博士! ・・・ あ お茶ですの? 」
「 うん 熱いのが欲しくてな ・・・ 」
「 はい 今淹れますわね。 玄米茶の美味しいのがありますの。 」
「 おお ありがとう ・・・ 今の話じゃがな。
フランソワーズ、 お前の帰りが遅い日、 チビさん達のお迎え はワシの担当じゃ。
学童クラブまで迎えに行って三人で買い物でもしてかえってくるぞ。 」
「 博士 ・・・ そんな ご迷惑では ・・・ 」
「 孫の迎えは じじ・ばばの役目。 どんと任せくれ。 」
「 博士 本当にいいのですか? 学童クラブまでけっこう距離、ありますよ?
わたし いつでも自転車ですもの。 」
「 いやいや 脳の活性化のためには適度な運動が必要じゃよ。
駅から研究室まで いつもバスで通うが、たまたま歩いて行った日に
理論の新たなる展開へのヒントを思い付いた・・・という科学者もおる。 」
博士はやる気満々〜〜 まあ 一日中研究室に閉じこもっているよりもずっと健康的だろう。
「 それじゃ 博士・・・ お願いしますけどお疲れの日にはちゃんとおっしゃってくださいね。
子供たちだけでもちゃんと帰ってこられますから。 」
ジョーは 感謝しつつも抑えるべきポイントはしっかりと抑えておいた。
「 任せておけ。 フランソワーズ ・・・・ お前にはお前の夢を追って欲しい。
そのためならなんでも協力するぞ。 」
「 ・・・ ありがとうございます ・・・ お願いいたします。 」
「 うむ うむ〜〜 小さな子供らのエネルギーはのう、ハンパじゃない。
ワシも彼らから チカラをもらえるかもしれんよ。 」
「 あっは ・・・・ まあ 〜 ただの煩い悪ガキ・・ かもしれませんよ 」
「 かまわん。 それはそれでまた楽しみじゃからな〜 」
博士はにこにこ ・・・ なにやら企みがあるらしいが二人は敢えて聞こうとはしなかった。
後日談になるが 博士は 学童クラブで 子供向の簡単科学教室を開設したりするようになるのだった。
< かがくのおじいちゃん > として界隈で コドモたちのちょっとした人気モノとなる。
ぱふん ・・・ ジョーはベッドのリネンの海から腕を伸ばし身体の向きを変えた。
「 ・・・ ジョー ・・・? 」
少しぼうっとした声が 彼の胸元ちかくから聞こえた。
まだ二人の間には熱くて甘い空気が漂っている。
「 あ ・・・ ごめん ・・・ 眠ってた? 」
「 ・・・ ううん ・・・ うふ ・・・ 」
するり。 白い腕がゆるゆると絡まってきた。
「 ふふふ ・・・ 」
彼は彼の恋人を引き寄せて そっと口づけをする。
「 ・・・ うふ ・・・ もう ダメ よ ・・・ 」
「 はいはい・・・ 奥さん ・・・ 」
「 ・・・ いいコね ・・・ 」
「 ・・・ 明日 さ。 チビたちにぼくから話すから 」
「 え いいの。 」
もう一度 ジョーはもぞもぞ・・・細君の方に向き直った。
「 お母さんのために皆で協力するさ。 それが家族だろ? 」
「 ・・・ でも 」
「 いいんだって。 だから ― きみ頑張れよ。 」
「 ありがとう ジョー ・・・ もううれし過ぎて・・・ 涙がこぼれちゃう・・・ 」
「 ま〜〜た 泣くぅ〜〜 」
彼は彼女の涙をそっと吸い取った。
「 ふ〜〜ん♪ で さ。 相手役ってか <王子様> は 」
「 え? ああ ・・・・ アルブレヒトはタクヤよ。 」
「 ! ヤツかあ ・・・ ふ〜〜〜ん 」
「 彼とは 今一番息が合う ・・・ っていうカンジ・・・
こんな オバチャンとでも踊ってくれるんですもの、 感謝してるわ 」
「 ! オバチャンだなんて ! きみは 若いよ! 」
「 ・・・ あのね、 わたしは子持ちのオバチャンなのよ? 」
「 ・・・・ そりゃ子持ちは確かたけどさ〜〜 」
「 タクヤは いいコよ、そして もっともっといいダンサーになれるわ。 」
「 ・・・ う〜〜ん 」
「 タクヤと組めて わたしの方がラッキーだと思ってるの 」
「 う〜〜〜〜ん ・・・ ぼくには詳しいことはわかんないけど〜〜 」
「 彼、いいコでしょ? ジョーだって・・・ 何回か話、してるでしょ 」
「 ・・・ まあ な 」
「 すぴかもすばるも タクヤのこと、だ〜〜い好きだし ・・・ わたし 頑張るわ。 」
「 ― フランソワーズ。 きみはぼくの妻でぼくはめちゃくちゃ〜〜に愛してる! 」
「 なあに?? いきなり ・・・ 」
「 いいから〜〜〜 」
「 ? きゃ ・・・ もう〜〜〜 」
ついにクスクス笑いだしてしまった細君を抱きしめると ジョーはお気に入りの亜麻色の髪に
顔を埋めた。 そして ― 彼女のうなじ、耳の後ろに くっきりキス・マーク♪
「 ふ ふん ・・・! このオンナは ぼくのモノだから な! 」
そして ― フランソワーズの 夢への挑戦 が始まった。
Last updated : 05,12,2015.
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******** 途中ですが
舞台の < 踊る側 > を 描いてみたいな〜と
思っています。 設定上 【 島村さんち 】 ですが
双子ちゃんがあまり出てこない・・・かも??